ピアノ用防音室に必要な性能は?マンションと一戸建てで防音室を作る時に必要な防音性能

近年では、生活音による騒音トラブルが増加傾向にあると言われており、部分的な防音リフォームを検討する方が増加傾向にあります。ただ、本格的な防音工事のご相談となると、やはりピアノの防音室を作りたいというご要望が多く、自宅でピアノ教室を開設する方やお子様にピアノを習わせるためと言った理由でピアノ用防音室を求める方がさまざまな楽器の中でも最も多いです。

それでは、自宅でピアノ用防音室を作る場合にはどの程度の防音性能が必要になると思いますか?ピアノを演奏するための防音室を求める方は、「自分が演奏するピアノの音で近隣の方に迷惑を掛けたくない」という騒音問題への配慮が主な理由だと思います。ただ、どの程度の防音性能をもたせておけば、ご近所の方に音で迷惑をかけないのかよくわからないという方が多いと思います。特に、現代人の日常生活を考えてみると、マンションなどの集合住宅で生活する方もいれば、一戸建て住宅で生活している人もいて、建物構造が違う場合、必要な防音室は変わるのか…という点も気になるはずです。

そこでこの記事では、楽器用防音室の中でも、最も相談件数が多いピアノについて、マンションや戸建て住宅、それぞれの環境で必要な防音性能をご紹介します。

ピアノ用防音室を作る時の流れ

ピアノなど、楽器用防音室を作るための防音工事は、壁の中に遮音材や吸音材を充填して壁を分厚くしたり、窓を二重サッシにする、防音ドアに交換する、床を浮き構造にするなど、いろいろな対策が施されます。しかし、何の計画性もなく、巷で「防音効果がある」と言われる対策を行き当たりばったりで施工していったのでは、どのぐらいの防音性能が出るのかは、防音室が完成した後にピアノを弾いてみないと分かりません。

特に、マンションなどの集合住宅に住んでいる方の場合、ピアノの音が漏れているかどうかを確認するため、上下左右のお宅に入らせてもらうなんてこともできませんし、施した防音対策の成否を自分で判断することができないわけです。そこで重要になるのが、ピアノなどの防音室を作る時には、きちんと段階に基づいて計画を作り、その通りに実施するということです。例えば、以下のような段階を踏むことが基本と考えましょう。

  • STEP1 防音室の目標値を決定する
    防音室を作る時には、「どこに対して?」「どれぐらいの防音性能が必要か?」など、具体的な数値目標を設定します。
  • STEP2 防音室の仕様を検討する
    STEP1で設定した目標をクリアするためには、どのような工事が必要なのか、防音工事の仕様を計画します。
  • STEP3 防音工事を実施
    STEP2の計画に基づいて、防音工事を施します。
  • STEP4 防音室の性能をチェック
    出来上がった防音室について、計画通りの目標を達成できているの確認します。(専門業者の場合、日本建築学会やJIS規格が定める方法にて測定を行います。)
  • STEP5 必要であれば改善策を練る
    性能チェックの結果、当初の目標通りの防音性能が発揮できている場合、防音工事は完了です。ただ、性能チェックで問題があれば、その原因の特定、改善策を検討する必要があります。

防音工事は、施工を施す場所によって条件や防音室の用途など、案件ごとに異なるわけですので、それぞれの工事について明確な計画が必要不可欠です。いわゆる「PDCAサイクル」と呼ばれるものですが、防音工事を成功に導くためにはこれがとても大切です。

コロナ問題以降、防音工事の需要が非常に高くなっていることから、もともと防音工事の知識や技術を持っていないリフォーム工事業者や工務店が防音業界に参入してきています。そして、こういった業者の中には、「音漏れは壁を二重張りにすれば防げるのだろう」「二重サッシを導入すれば大丈夫だろう」など、方法論だけは思いつくものの、その対策を施すことでどの程度の効果が見込めるか分からないまま工事に着手するケースが多くなっています。

どのような工事でもそうですが、「P=計画」が最も重要で、Pが間違っていればどれだけ頑張っても求めていた成果を得ることはできません。それなのに、防音工事業界では、具体的な目標設定も行わないなど、「P=計画」すらないまま「D=実行」に移ってしまうという失敗パターンが増えています。

実際に、弊社にもそのような案件の手直しに関するご相談も増えていて、他社で防音工事を行ったのに、ご近所さんから苦情が出てしまったなどの残念なケースも少なくありません。この場合、追加工事で必要な性能を発揮させることができればまだ良いのですが、最悪の場合、一度全ての壊してから一から作り直さなければならないなんてことも多いです。

ピアノなど、楽器用の防音室を作る場合には、防音の目標値をきちんと設定できるようにしましょう。以下で、ピアノ用防音室の目標値の設定方法について解説します。

ピアノ用防音室の目標を作るには?

それでは、これからピアノの演奏用に、ピアノ用防音室を作ろうと考えている方が知っておかなければいけない、防音室の目標値設定について解説します。上述したように、防音室工事は、目標を決めて、その目標を達成できる計画を作らなければいけません。

ピアノ用防音室の目標値を考える前に、まずはピアノから発生する音の大きさ(音圧)を知っておく必要があります。ピアノの音色は「美しい音色」というイメージしかないかもしれませんが、その音を聞きたいと思っている時以外であれば、騒音以外の何物でもありません。ピアノは、まだ腕が未熟なお子様の習い事レベルでも、90dB前後の大きな音が生じます。そして、大人がフォルテシモで思いきり弾けば瞬間的に100dBを超えることもあります。なお、自宅で練習用にと考えるのであれば、ピアノの音圧は『95dB』を想定しておけば良いと思います。

ちなみに、防音の専門業者の場合、単なる音圧だけでなく、「音の高さ=周波数」の事も想定して防音室の計画を行います。ここでは、マンションなどの集合住宅でピアノ用防音室を作る場合と一戸建てに分けて、どの程度の防音性能を目標とすれば良いのかを考えてみます。

マンションでピアノ用防音室を作る場合の目標値

まずは、マンションなどの集合住宅にて防音室を作る場合の性能目標値についてです。防音工事の目標設定については、音を聞こえなくしたいのは「同じ建物内なのか?」「建物の外なのか?」で分けて考えます。これはつまり、マンションなどの集合住宅か、各家庭の生活空間が独立する戸建て住宅かで別々に考えるという意味です。

マンションなどの集合住宅で、ピアノなどの楽器演奏を行う場合、両隣や上下階に住んでいる人に対する配慮をしなければいけません。特に、ピアノ用防音室が接しているのが、リビングや寝室などという場合は注意が必要です。例えば、夜間など、オールタイムでのピアノの演奏が想定されるような防音室が寝室に隣接しているという場合、ピアノの音漏れが30dB以下になるようにしたいです。

上述したようにピアノは、平均で95dB程度の音が生じますので、「95-30=65dB」の音を減らすことが目標値になります。ちなみに、ピアノの上級者であれば、瞬間的に100dBに達するような音が出る場合もありますので、最大限の配慮をする場合には「100-30=70dB」の減音を目標にするのが安心です。

これからも分かるように、マンションなどの集合住宅にてピアノ用防音室を作る場合、「D-65(可能であればD-70)」の性能が目標値になります。

一戸建てでピアノ用防音室を作る場合の目標値

次は、一戸建て住宅にピアノ用防音室を作る場合です。一戸建て住宅の場合は、ご近所さんに配慮するため防音室を作ります。

マンションとの大きな違いは、一戸建ての場合、あなたの家から出た音は、いったん屋外に出て、お隣さんの家まで空気を伝って届くという点です。マンションの場合は、壁のすぐ向こうがお隣さんの生活スペースになるのですが、戸建て住宅の場合は多少の空間があります。

こういったことから、一戸建てのピアノ用防音室は、防音室内で生じた音が「窓の外」「壁の外」で、どれぐらい小さくなっていれば良いかで目標を設定します。当然、屋外の空間は、誰か特定の居住スペースではありませんし、ある程度小さな音になっていれば良く、ピアノの音が完全に聞こえなくなるほどの性能は不要です。さらに、どのような閑静な住宅街だとしても、屋外にはさまざまな環境騒音が存在していますので、小さな音は環境騒音に埋もれてしまいます。

こういったことを前提とすれば、一戸建ての防音室は、窓や外壁から1m程度離れた位置で45dB(環境省などの基準値)ぐらいまで音が小さくなっていれば、十分に静かな環境と言えます。つまり、平均的なピアノの音「95dB」を45dBにまで小さくすれば良いので「95-45=50dB」の性能『D-50』を目標とすれば良いでしょう。

自宅の他の部屋に対する防音について

防音室を作る目的は、近隣住人に配慮するためというのがメインです。ただ、楽器の演奏は、想像以上に大きな音が生じますので、同居家族に対する配慮も検討しておくべきでしょう。

自宅内の他の部屋に対する防音に関しては、マンションなどの集合住宅の考え方とほぼ同じで、防音室の上下左右の部屋に対してどの程度防音するのかという目標を考えます。ちなみに、マンションの近隣に対する防音性能は、D-65以上を目指し他の家ではほとんど音が聞こえないレベルを目標にします。ただ、同居する家族に対する防音に関しては、ほとんどの場合、そこまでの防音性能を必要としない方が多いです。
さらに、一般的な住宅は、部屋と部屋を隔てる壁が、マンションでの他の家庭を隔てる境界壁のようにコンクリート作られることなどほぼありません。そのため、そういった室内壁に対して防音対策を施すことになるのですが、その場合は物理的にD-65の性能を実現するのは困難です。

実際に、木造一戸建て住宅でピアノ用防音室を作る場合、隣の部屋に対する防音性能は「D-50~D-55」程度であることがほとんどで、このレベルの性能で基本的に十分です。もちろん、隣の部屋が寝室の場合、夜中の演奏をうるさく感じることもあるかと思いますが、その辺りは寝室から離れた部屋を防音室にするなど間取りの工夫や、家族が就寝する夜間は演奏しないなど演奏時間を工夫することで何とかなるはずです。

まとめ

今回は、自宅に防音室を作りたいと考えた時、自分が希望する性能の防音室を作るためのポイントをご紹介しました。この記事でご紹介したように、防音工事は、「どの音をどの程度まで小さくするのか?」と言った明確な目標を立て、それを実現できるような防音室の仕様を検討することが最も重要です。というのも、やみくもに防音対策を行ったとして、希望する性能が出ていなかった場合、最初の計画が無いと、どこを手直しすれば良いのかの判断も難しくなります。もちろん、やみくもに防音対策を行った場合でも、たまたまうまく行って結果オーライになることもあるとは思いますが、そのような運任せの施工に数百万円単位のお金などかけたくないと考えるのが普通なはずです。

防音工事は、年々その需要が高まっていることもあり、防音工事に関する知識を持たないリフォーム会社、工務店が参入してきています。そういった会社に防音工事の相談を行った場合、何の理論もなく「壁を分厚くすれば良い」「二重サッシにすれば良い」などと、ありきたりな対策を提案してくるでしょう。防音室は、室内の音響環境など、長時間の演奏でも快適に過ごせるような機能も必要ですので、専門業者に工事を依頼するのがオススメです。

防音工事の匠は、防音工事業界で20年以上もの間、数多くの防音工事を手掛けてきた熟練の職人が施工いたします。お客様の要望やご予算に合わせて、最適な防音室の設計から行いますので、お気軽にご相談ください。

スタッフ A

大阪で20年間にわたって防音工事に携わってきました。
防音工事に関しての事、音に関する豆知識などを配信しております。

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古民家再生ショールーム防音工事の匠はショールームがあります

ピアノ防音室

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鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の建物にショールームがある会社さんが多い中、特に施工後にショールームと性能や音の反響がちがうといったトラブルが戸建てのお客様に多い業界ですが、町家再生事業として難易度の高い防音室を防音性能が最も出にくいとされる木造町家のショールームをご用意いたしました。

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