遮音とは?防音工事を検討中なら知っておくべき遮音と吸音の基礎知識
今回は、何らかの理由で自宅の防音工事を検討している方に向け、防音の基礎知識となる遮音と吸音とはどういった意味合いを持つものなのかについて解説します。
近年では、騒音を原因とするご近所トラブルが急増していると言われており、日常生活の中にある生活音に対する防音の問い合わせが増えています。ただ、生活音への防音対策であれば、専門業者に依頼しなくても、自分で対策が可能なのではないかと考える方も少なくありません。
実際に、ホームセンターやインターネットの通販サイトなどでは、個人で防音対策が簡単に施せるような防音グッズが多数販売されていて、こういったアイテムを利用すれば自分で音の問題を解消できるのではないかと考えてしまう方も多いです。しかし、実際に防音対策を行う段階になってみると、自分が悩んでいる音に対して、具体的にどのような材料を使ってどう対処すれば良いのかが分からない…となってしまう方も多いようです。
防音は、遮音と吸音の能力をバランスよく持たせる必要があるのですが、一般の方の中には、そもそも遮音と吸音が何を意味しているのかすら理解していない場合も少なくありません。そこでこの記事では、遮音と吸音について、その仕組みとそれぞれの効果を持つ材料がどのような物なのかを解説します。
吸音の仕組みと吸音材の種類
まずは、吸音の仕組みを簡単に解説します。空気を介して伝わる空気音を防ぎたい場合、主に吸音と遮音が活用されます。吸音は、吸音効果を持つ吸音材が使用されるのですが、音がその素材の中を通る時、音のエネルギーが熱エネルギーへ変換されることで、音の振動が小さくなり、反射する音が小さくなるという現象です。つまり、音は吸音材に取り込まれていると考えられるでしょう。
ただ、吸音材にもいくつかの種類が存在していて、具体的な吸音の仕組みは利用する吸音材の素材によって違いがあります。ここでは、吸音の仕組みが理解しやすいよう、骨格と小さな隙間(無数の孔)で構成される多孔質素材の吸音の仕組みについて簡単にご紹介します。
この素材は、以下の流れで音を小さくしていきます。
- ①吸音材の中に入った音が小さな穴を通って拡散する
- ②隙間を伝わるときに骨格との間で摩擦が生じる
- ③同時に、骨格を振動させる
- ④「②と③」で一部の音エネルギーが熱エネルギーに変換される
- ⑤音エネルギーが失われることで反射音が小さくなる
上記は、吸音材の中でも、防音工事にもよく採用されるグラスウールなどの多孔質素材の吸音の仕組みです。かなり簡潔に解説していますので、完全に上記の通りとは考えないでください。
ちなみに、吸音材の性能は、『吸音率』というものが利用されます。吸音率がいかなるものかの解説は割愛しますが、素材に向かってきた音が反射しにくいものほど性能が高く、反射しやすいものが性能が低いと判断されます。室内での音の反響を抑えたい時には、吸音率が高い物を活用すると良いでしょう。
吸音材の種類
それでは、代表的な吸音材について、それぞれの特徴をご紹介します。
多孔質材料
吸音材として最も利用されているのが多孔質材料と呼ばれるタイプです。これは、素材の中に小さな穴が無数に開いている材料を指しています。なお、多孔質材料にもいくつかの種類があり、代表的なもので言えば以下のような材料となります。
- ・グラスウール
- ・ロックウール
- ・ウレタンスポンジ
- ・フェルト
グラスウールやロックウールは、住宅の断熱材としても活用される材料ですので、防音対策としてこれらの材料を採用した時には、断熱性の向上も同時に実現することができます。また、グラスウールやロックウールは、燃えにくいという特徴があるため、住宅に採用する防音材としては非常にメリットが多い素材です。ウレタンスポンジやフェルトに関しては、自動車や産業機械の吸音材として採用される場合が多いです。
多孔質材料の性能については、主に中音域・高音域に対して効果を発揮するという特徴があります。そのため、低音域の音にまで対応したい場合、素材の厚みを増すなどの対策が必要です。いくつかのデメリットが存在するのは確かですが、コストを抑えやすいといった金銭面のメリットもありますので、防音工事業界での吸音材としては主流となっています。
板状材料
板状材料は、気体の流れを邪魔することで吸音効果をもたらすものを指しています。板状材料に音がぶつかった時には、板振動・幕振動が発生し、摩擦によって一部の音エネルギーが消費され音が小さくなるという作用が得られます。
板状材料にも種類があり、代表的なもので言えば、以下のような感じです。
- ・ベニヤ板
- ・カンバス(太い糸で織った布)
- ・フィルム
- ・シート
板状材料の特徴は、低音域に対して優れた効果を発揮するという点です。また、手軽に活用できることもメリットと言われています。
ただ、板状材料は、吸音性能そのものはそこまで高くないので、基本的には応急処置的な防音対策に採用される吸音材という扱いになります。本格的な防音対策を検討している場合、その他の材料による対策を検討すべきです。
有孔板
有孔板は、音楽室の壁などに採用されている吸音材で、空洞につながる孔(共鳴器)が設けられた板のことです。音が有孔板にぶつかると、孔部分で空気が激しく振動して、摩擦により音エネルギーが消費され、音が小さくなるといった仕組みです。
代表的な有孔板は、以下のような物があります。
- ・有孔ボード
- ・パンチングメタル
有孔板は、防音室をはじめとして、音楽室やスタジオなど、さまざまな施設で活用されています。非常に吸音率に優れた材料で、比較的活用もしやすい材料なのですが、設置すると部屋の印象が大きく変わる点は注意しましょう。
遮音の仕組みと遮音材の種類
遮音は、文字通り音を遮るという意味で、外の音が内へ伝わらないようにする、もしくはその逆に内で生じた音が外に漏れないようにするというものです。
何かしらの素材にぶつかった音は、跳ね返るものと吸収されるもの、素材と透過して行くものに分かれます。透過とは、壁などにぶつかっても、その壁を通り抜けて内側もしくは外側に伝わっていくことを指します。
遮音とは、主に音を跳ね返す効果を持つ材料を利用して、音を遮る対策のことです。この遮音効果は、材料の質量と比例して、重くなるほど遮音性能が高くなっていきます。ちなみに、遮音効果が高すぎる部屋は、その分、音が反響しやすくなります。
遮音材の種類
遮音材は、さまざまなモノが利用されています。例えば、住宅のことを考えても、コンクリートが壁に採用されているケースや、木材が採用される場合がありますよね。実は、この材料の違いで、住宅の遮音性に違いが生じるのです。
ここでは、遮音に利用されている主な材料とそれぞれの特徴を簡単に解説します。
コンクリート
コンクリートは、質量が大きいため、一重壁の遮音構造として適しています。周波数が一定であれば、板材の面密度(質量)が大きいほど効果は高くなります。
最近では、気泡加工を施した気泡コンクリートなどもあるなど、バリエーションも豊富になっています。
ガラス
住宅で考えると、窓に使用される遮音材です。窓に使用されるガラスには、単板ガラス、合わせガラス、複層ガラスと、いくつかの種類が存在します。
一般的な住宅に採用されるガラスが、単板ガラスです。単板ガラスの遮音性は、質量が大きくなるほど高くなります。ただ、一定の周波数域で性能が低下するという弱点があります。したがって、幅広い周波数の遮音に対応するため、異なるガラスを組み合わせる複層ガラスなどが防音ガラスとして販売されています。また、合わせガラスは、ガラスとガラスの間に特殊なフィルムを挟みます。例えば、耐衝撃性を高めるためのフィルムなどを挟み、防犯ガラスとして利用されたりします。間に挟むフィルムによって得られる効果が変わります。
基本的には、ガラスは低音域での効果が低くなりますので、外部騒音で言えば自動車の走行音などは防ぎにくいです。
木材
木材も遮音目的で採用される場合があります。例えば木造住宅の壁は、ある程度の遮音効果を期待しているでしょう。ただ、木材は、一部の物を除いて、基本的に遮音性はそれほど高くありません。
これは、木材の密度が高くないからで、鉄筋コンクリート造と木造の防音性で、鉄筋コンクリートの方が高いとされるのは、コンクリートが密度が高く重量もあるからです。したがって、遮音目的に木材を利用する場合、密度の高い木材を選択する、二重壁を採用するなどの対策が必要になります。
その他
上記以外にも、土や金属などの材料があります。土や金属は、どちらもある程度の重量(密度)があることから、遮音性が高い素材と考えられます。
まとめ
今回は、防音の基礎知識となる、遮音や吸音がどのような仕組みで作用するのかを解説しました。自宅の防音対策を検討した時には、この記事で解説したような大まかな理解ではなく、それぞれの機能がどのように作用することで防音性を確保できるのか、しっかりと考える必要があります。これは、遮音と吸音のバランスをきちんと考えておかなければ、「遮音性は高いものの、音が反響しすぎる…」「吸音性が高すぎて不快に感じる…」など、防音室の使い勝手が悪くなってしまいからです。
専門業者による防音工事は、単に防音性能のことを考えるのではなく、防音室を利用するユーザー様ができるだけ快適に過ごせるということも重視しているのです。最近は、防音室を自作しようとする方が増えているようですが、防音工事のための材料を集める前に、防音に関する正しい知識を頭に入れる必要があると考えてください。