さまざまな場面で効果的な防音対策となる『サウンドマスキング』とは?
一般的に、防音対策というのは、吸音や遮音、防振対策などを行い、部屋の中から音が漏れないようにする、または部屋の中に音が侵入しないようにするものだと考えますよね。実際に、弊社のような防音工事業者に来る相談の多くは、楽器用防音室を作りたいだとか、窓を二重窓にして外部騒音をシャットアウトしたいというものが多いです。
しかし実は、防音対策の中には、「音のマスキング効果」を利用した対策というものが存在していて、オフィスや飲食店など、皆さんの身近な場所で取り入れられています。ただ、「音のマスキング(サウンドマスキング)」という言葉については、その文字を見ただけでは、どういった対策なのかがいまいちイメージできないという方も多い事でしょう。
そこでこの記事では、誰もが身近なところで体験していると考えられるサウンドマスキングについて解説していきます。サウンドマスキングは、オフィスなどで「会議の声を外に聞こえにくくしたい」などのお悩みをお持ちの方に非常に効果的な手法ですので、ぜひ参考にしてみてください。
私たちの周りに存在する環境音について
音のマスキング効果については、壁の遮音性や吸音性を高めて、音漏れや音の侵入を防ぐという方法ではありません。そもそも、普段私たちが何らかの行動を行う時には、周囲が完全に無音な状態になるようなことはなく、さまざまな環境音が存在しています。
環境音とは、私たちが日常生活を進めるにあたって、身の回りから聞こえてくる音のことを指しています。例えば、強風が吹いている時に聞こえる風の音や雨音などの自然の音を始めとして、自動車や電車などが通る時の走行音、近くにいる人の話し声やくしゃみ・咳の音などが該当します。他にも、オフィスで仕事をしている時に聞こえてくる、周囲の人のパソコンのタイピング音や電話の音なども環境音にあたります。
こういった環境音は、日常的に非常に近い位置に存在しており、常に耳にしている音であるため、人が不快に感じにくいという特徴があります。そのため、騒音対策や集中するための環境作りの一環として、わざと環境音を流しておくといった対策も使われています。
音のマスキング効果について
「音のマスキング効果」や「サウンドマスキング」などという用語については、一般の方が耳にする機会などあまりないと思います。この、音のマスキング効果とは、「同じ周波数の音が重なると、一方の音が聞こえにくくなる」という現象のことを指しています。
例えば、静かな環境で、時計の音が気になったとしても、空調をつけると空調の動作音によって時計の音が聞こえなくなった、といった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。音のマスキングは、こういった今まで気になっていた音が、別の音が被さる(マスキングされる)ことで、気にならなくなるといったものと考えてください。なお、一般的に、低い音よりも高い音の方がマスキングされやすいという特徴があります。
こういったマスキング効果は、さまざまな場所で『騒音対策』として応用されるケースが増えています。要は、人が不快に感じる、どうしても気になるような音が存在する場所で、意図的に周波数が近い音を流すことで、気になっている音の不快感を緩和することを目指すといった対策になります。
サウンドマスキングは、通常の防音工事のように、騒音そのものを消すのではなく、目立たなくさせることを目的としています。注意が必要なのは、気になる音を打ち消す目的でも、被せる音が人が不快に感じる音になってしまうと、余計に気になってしまい意味がなくなります。サウンドマスキングは、どのような音を流すのかも非常に重要だと覚えておきましょう。
マスキングの具体例について
サウンドマスキングは、何らかの音に「不快にならない」音をぶつけることで、もともとあった音が気にならなくなるという対策です。この手法については、電車内など、ある程度大きな音が存在する環境下で、人と会話をした場合、相手の声が聞き取りにくくなったり、自分の声が届かなくて会話が成り立たない…という現象に似ています。要は、人の声を騒音がマスキングしているわけです。
もちろん、騒音で音声をマスキングするという方法は、余計に音が気になってしまう…なんて問題を引き起こしてしまうかもしれませんが、こういった方法も悪い点ばかりではないのです。例えば、アパートなどの集合住宅で生活している人が、隣の人の話し声などに悩んでいたとしましょう。そしてこの場合に、自分の部屋側で音楽をかけたり、テレビの音声を高めたりすれば、今まで気になっていた隣の話し声が気にならなくなるでしょう。これは、気になっていた音を音楽でマスキングしているのです。他にも、他の人に聞かれたくない話をする時に、大きな音楽や環境音がある場所で話せば、その音にマスキングされ、周囲にいる人が話の内容を聞き取りにくくすることが可能です。サウンドマスキングは、このように、プライバシー保護のためにも活用される手段です。
サウンドマスキングが活用されているのはどんな場所?
それでは、サウンドマスキングが活用されている場面について、いくつか具体的にご紹介していきましょう。
工場
工場は、さまざまな大型機械を使用する施設ですし、「うるさい音があって当たり前」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?そのため。サウンドマスキングなどで、わざわざ音の対策などを行うとは思えない…と考えてしまうかもしれませんね。
しかし、工場の中にも、休憩室など、静かであってほしい場所は存在するのです。当然、こういった場所にいる時に、作業音や人の会話などが聞こえてくると、音が気になって休憩もままならない…なんてことになってしまう恐れがあります。
そのため、工場の休憩室などでは、音楽によるサウンドマスキングが行われているケースが多いです。リラックスできるような音楽を流しておくことで、周囲の音が気にならなくなり、休憩の効果も高まるという声が上がっているようですよ。
オフィス
オフィスや、オフィス内の会議室にサウンドマスキングを施したいという相談は非常に多いです。多くの人が同じ空間で仕事をすることになるオフィスは、他人のタイピング音や会話の声などが気になり、集中力を乱されてしまう…なんて声は多いです。また、会議室を利用する時には、部屋の外に声が漏れていないか気になってしまうケースもあるでしょう。
そこで、オフィスなどでは、空調の音など、環境音を意図的に流すことで、他の音を聞こえにくくするという対策がとられるケースが多いです。他人の話し声やタイピング音が聞こえにくくなれば、仕事に集中しやすいですし、情報漏洩対策にもつながるので、非常にありがたい対策になると思います。
飲食店など
サウンドマスキングが最も有効活用されているのが、飲食店などの商業施設かもしれませんね。皆さんも、さまざまな店舗や飲食店に足を運ぶ機会があると思うのですが、多くの場合、何らかの店内BGMが流されていると思います。
もちろん、店内BGMは、お店の印象をよくするなどといった目的もあるのですが、実は外部騒音や雑音への対策という側面もあるのです。例えば、せっかく雰囲気の良い飲食店だとしても、外部から自動車の走行音や話し声などが聞こえてくると、雰囲気がぶち壊しになってしまうようなこともあるでしょう。そのため、お客さんにとって不快に感じるような音の対策として、店内BGMが流されているのです。特に、コロナ禍の現在、換気のために窓やドアを開放しているお店が多いのですが、その場合、外部騒音が入ってきやすくなるので、それをBGMによってマスキングするわけです。
他にも、内部で発生する音の対策にも有効です。例えば、厨房から聞こえる調理や食器を扱う音のマスキング、他のお客様同士の話声を聞こえにくくするなど、飲食店などでは、サウンドマスキングが有効活用されているのです。
まとめ
今回は、「音で音を聞こえにくくする」という技術であるサウンドマスキングについて解説してきました。この技術は、オフィスや飲食店などで活用されることが多い技術なのですが、コロナ禍でテレワークが当たり前となった現在、一般住宅用の騒音対策としても効果的な手法とみなされるようになっています。