新築一戸建てに防音室を取り入れたいと考えている方が、知っておきたい法律の知識について
時間帯を気にすることなく音が出せる防音室の需要は年々高くなっています。近年では、集合住宅で生活をする方も増えていますし、戸建てでも家と家の距離が近くなっていることから、近隣の方と音に関するトラブルを抱えてしまう方が増えているからです。
そして、これから注文住宅の建築を検討している方の中には、自宅に防音室を取り入れたいと考えている方も多いのではないでしょうか?防音室があれば、楽器の演奏や映画鑑賞、自宅カラオケなどと、通常の居室では難しい音が生じる趣味を楽しむことができるようになります。ただ、自宅に防音室を取り入れるという場合は、通常の居室とは異なる構造の部屋を作らなければならないため、法律上の注意点も沢山出てきます。
そこでこの記事では、注文住宅に防音室を取り入れる場合、建築時にどのような点に注意すべきかを解説します。
防音室の定義と費用相場について
防音室は、文字通り音を防ぐことができる居室のことを指していて、室内外への音の伝搬を防ぐことを目的に作られた、高い防音性能を持った部屋のことを指しています。主に、楽器の演奏を生業としている方が楽器の練習のために取り入れたり、映画鑑賞や自宅カラオケなどを楽しむ用途などで使われています。
なお、一口に「防音室」と言っても、実現する方法はいくつか存在します。例えば、立って演奏できる楽器練習用の防音室やボーカル練習が目的の防音室など、1畳程度のスペースがあれば良いという場合、組立式防音室(ユニット式防音室)を設置するという方法でも、防音環境を作ることが可能です。
ただ、注文住宅を建築する際に取り入れる防音室に関しては、一室まるごと防音室にするための対策を施すと言う方法で実現される場合が多いです。この方法の場合、部屋の中にもう一つ部屋を作り、空気伝搬と固体伝搬の両方の音を防げる浮き構造の防音室を作る場合がほとんどです。また、ドアや窓に関しても、防音性能の高い特殊な建具が採用されることになるため、通常の居室を作る場合よりも、建築コストが高くなります。
それでは、注文住宅に防音室を取り入れる場合、どの程度の費用がかかるのでしょうか?以下で、いくつかの用途の防音室について、その費用相場をご紹介します。
防音室の費用相場について
新築の一戸建てに防音室をつくる場合の費用については、坪あたり100万円〜、6畳で250万円〜が費用相場と言われています。ただ、防音室の実現にかかる費用については、利用用途、防音室の広さ、求める性能などによって金額に幅が出ます。例えば、昼間にしか防音室を利用しないため、浮き構造にまではしないという場合、防音工事にかかる費用を抑えることが可能です。
以下に、用途と広さ別に防音室を実現するためにかかる費用感を大まかにご紹介します。
用途 | 4畳 | 6畳 | 10畳 |
---|---|---|---|
ピアノ室 | 260万円 | 280万円 | 320万円 |
ドラム室 | 360万円 | 380万円 | 420万円 |
管楽器室 | 240万円 | 260万円 | 300万円 |
ホームシアター | 200万円 | 220万円 | 260万円 |
上記はあくまでも大まかな費用相場です。実際の防音室にかかる費用については、周辺環境や建物構造などが関係し、上下します。
注文住宅で防音室を取り入れる方が知っておきたい法律
注文住宅を建てる時に、防音室を取り入れようと考えている方は、以下の二つの法律については注意しておきましょう。もちろん、法律への適合性については、専門業者が責任をもって行うものですが、近年の防音業界では、内装リフォーム業者が防音の専門家と称し工事を請け負うようになっていることから、関連法令に関する知識を持っていないケースが見受けられるようになっているのです。
建築基準法
日本国内に建築物を建てる際には、建築基準法によってさまざまな制限を受けることになります。防音室に関しても、建築基準法に適合させなければいけません。
防音室に関係する部分で考えると、「設計計画上『居室』と表記される部屋には採光と換気のための窓を設けることが義務付けられている」という点に注意しましょう。防音室の性能面だけを考えると、窓や換気口などの開口部を設けない方が当然性能が高くなります。窓は、FIX窓以外、きちんと閉めていても多少の隙間が生じる構造になっていますので、ないよりもあった方が音漏れの可能性が高くなるのです。
こういったことから、窓や換気口を無くしてしまおうと考える方がいるのですが、建築基準法上、居室の扱いである以上、窓や換気設備の導入をしなければいけません。
消防法
防音室と消防法の関連性については、ほとんどの方が意識していないと思います。ただ、消防法では、住まいに住宅用火災警報器等を設置することを義務付けています。防音室を取り入れる時の注意点としては、他の部屋で火災報知器が作動した際、その警報音が防音室に聞こえなくなる可能性が高い点です。したがって、注文住宅で防音室を取り入れる際には、他の部屋の警報が防音室内にいても気付けるよう、他の部屋の警報機と連想する火災警報器の設置が必要です。
他の部屋で警報機が作動した際には、防音室でも警報音や光などで知らせてくれるシステムを導入しましょう。
新築の注文住宅に防音室を取り入れる時の注意点
それでは最後に、新築の注文住宅に防音室を取り入れようと考えている方に向け、いくつかの注意点をご紹介します。
防音室の用途を明確にする
リフォームでも同じですが、利用用途に適した性能を持つ防音室を用意するには、なんのために防音室を作るのかという目的を明確にしてから計画に入ることが大切です。
例えば、楽器防音室を作る場合でも、どのような楽器を演奏するのかによって必要な性能が異なります。楽器は、演奏する楽器ごとに音の響き方が異なるため、設計や使用する材料が異なるのです。ドラムなどの打楽器用の防音室が必要と考えている場合、空気伝搬音だけでなく、固体伝搬音にも十分に配慮した防音室を作らなければいけません。
また、動画配信用の防音室などになると、室内から室外への音漏れだけでなく、外部からの音の侵入を可能な限り少なくしなければいけません。満足度の高い防音室を実現するためには、防音室を何のために利用するのか、どの時間帯に利用するのかと言った条件を細部まで整理して、それを防音工事業者に伝える必要があると考えてください。
防音室独自の換気経路をつくる
建築基準法では、以下のように定められています。
(居室の採光及び換気)
第二十八条
2 居室には換気のための窓その他の開口部を設け、その換気に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、二十分の一以上としなければならない。ただし、政令で定める技術的基準に従つて換気設備を設けた場合においては、この限りでない。
引用:建築基準法
防音室は、その利用用途から換気のためにドアや窓を開放することなどできません。したがって、必要な換気量を得るためには機械換気設備を導入しなければいけません。新築時に防音室を取り入れるのであれば、防音室は密閉空間にする必要があることを考慮し、建物本体の換気経路とは別に、防音室独自の換気経路をつくる必要があると考えてください。
2階に防音室を作る場合は搬入方法や重量に注意
防音室は、床・壁・天井を二重構造にするなど、特殊な工法が採用されています。また、高い防音性能を発揮させるために、通常の居室には利用しないさまざまな材料が採用されます。したがって、通常の居室よりも部屋そのものが重くなりますので、それに耐えられるだけの構造にしなければいけません。特に、木造住宅の2階以上に防音室を作りたいと考えている場合、建物が防音室の重さに耐えられるか、正確な重量計算をしたうえでの設計が必要です。
この他、2階以上に防音室を作る場合には、楽器の搬入にコストがかかる場合がある点も注意です。例えば、ピアノなどの搬入では、条件によってはクレーンなどの特殊車両を使って搬入しなければならないケースもあり、その場合、通常よりもコストがかかります。防音室を設置する場所について、その辺りのこともよく考えて決めましょう。
エアコンは必須
防音室は、非常に気密性が高い環境になりますので、夏は熱がこもりやすく、エアコンがないと暑くて長時間滞在できない…なんてことになりやすいです。したがって、防音室を作る際には、エアコンの取り付けは必須と考えておきましょう。
新築時に防音室を作る方の場合、「実際に使ってみて必要そうなら後付けすれば良い」と考える方がいるのですが、防音室は通常の居室とは構造が異なるため、防音の知識がないエアコンの設置業者にエアコン工事をさせると、防音性能が一気に低下してしまう恐れがあります。したがって、新築時に防音室を作るのに合わせて、防音工事業者にエアコンの取り付けまでお願いするのがおすすめです。
インターホンの呼び出しが分かるようにしておく
これは意外に見落としている方が多い重要ポイントです。昼間に防音室の利用を想定している場合、インターホンの呼び出しが防音室内でもわかるようにしておく必要があります。
一般的は、リビングなどにインターホンのモニターを設置するのですが、その場合、防音室の中にいると、チャイムが聞こえない可能性があるのです。来客などがあっても、すぐに気付けるように、インターホンの呼び出しがあった時には、ランプなどが点灯するなど、視覚的に気付けるような工夫をしておくのがおすすめです。
まとめ
今回は、新築の注文住宅に防音室を取り入れる場合の注意点について解説しました。日本国内に建物を建築する場合、建築基準法や消防法が必ず関係してきます。そして、防音室は、一般的な居室よりも気密性が高い部屋に仕上がりますし、同じ建物内でも他の部屋からの音などが聞こえにくくなるという点は忘れないようにしましょう。
例えば、日本国内に建てる住宅には火災報知機を設置しないといけないのですが、防音室と他の部屋の火災報知機が連携していない場合、防音室の外で火災報知器が鳴ったとしても、それに気づくのが遅れてしまい、避難が間に合わなくなる…なんてことになりかねません。また、インターフォンの通知についても、他の家族が外出中に防音室を利用することが多い場合、インターホンの呼び出しがわかるようにしておくのがおすすめです。
防音室は、防音室としての利用用途ばかりに着目する方が多いのですが、通常の居室としての利便性の面も忘れないようにしましょう。なお、防音室内でインターネットを利用する場合、Wi-Fiではなく、LANケーブルを引き込んでおくのがおすすめですよ。高性能な防音室は、ホームWi-Fiの電波が届きにくいという話をよく耳にしますので、ネット回線のことを見落とすと防音室が完成してから困る可能性があります。