防音工事の落とし穴。見積り金額で業者を決めると後悔するかも!

今回は、防音工事を失敗に導いてしまう最も大きな要因について解説します。皆さんは、自宅で楽器の演奏などを検討して防音室を作る場合、どのようにして業者選びを進めるでしょうか?防音など、特殊な目的のないリフォーム工事であれば、馴染みの工務店さんなど、知り合いに依頼するケースも多いのですが、防音工事は特殊な技能が必要になる工事ですので、今まで仕事を依頼したことがない業者の中から工事を依頼する会社を選ぶことになります。

多くの場合、インターネットで検索し、数社の防音工事業者から相見積もりを取り、最終的な工事業者を選定するという流れになるのですが、こういった業者探しでは「最も安い価格を提示した業者を選ぶ」という方が多いです。しかし、防音工事の業者選びでは、この「最も安い業者を選択する」という行為が、失敗を招いてしまう大きな要因となるので注意が必要です。

そこでこの記事では、皆さんに抑えておいてほしい、防音工事の業者選びについて、見積り金額の視点から考えてみます。

防音工事は『目的』が重要

防音工事を成功に導くためには、見積り金額ではなく、「どのレベルの防音性能が必要なのか?」ということをきちんと考える事が重要です。自宅に防音室を作ろうと専門業者に依頼するということは、防音室が必要になるほどの音を生じさせる可能性が高いということです。つまり、防音工事の目的は、あなたが生じさせる音をきちんと防ぎ、近隣住民に迷惑を掛けないようにすることなのです。

それなのに、「予算が200万円だから、これ以下の見積り金額の業者から選ぶ」なんてことをしてしまうと、200万円の防音室は出来上がるものの、防音室の性能が足らず、音漏れが完全には防げない…と言った中途半端な結果になってしまう可能性があります。それでは、自分に必要な防音室の性能を見極めるにはどうすれば良いのかも考えていきましょう。

防音室は用途から性能を決める

大金をかけてまで、自宅に防音室を作ろうと考えている方に共通する目的は「自分が出す音によってご近所さんから苦情を受けないようにする」ことだと思います。したがって、防音室を作る時には、見積り金額から考えるのではなく、「苦情の心配を無くすにはどれぐらいの性能が必要なのか?」というゴールを設定しておかなければいけません。

そして、自宅の防音室に必要な性能を導き出すために重要になるのが『防音室内で発生する音量』と『環境騒音』の二つです。

■防音室内で生じる音量は?
防音室を作る時には、「防音室の利用用途」を明確にする必要があります。というのも、防音室内で何をするのかによって、防音室内で生じる音の大きさが決まってくるからです。以下に、防音室の利用用途別に、音量目安をご紹介しておきます。

  • ・アコースティックピアノ:95dB~(プロなら110dB程度出ることもある)
  • ・バイオリン:90dB前後
  • ・ドラム:100dB以上(演奏者によっては135dB程度になることもある)
  • ・動画配信など:75~85dB(人によってかなり誤差が生じます)
  • ・ホームシアター:90~100dB(機器によって差があります)

このように、防音室内では、かなり大きな音が生じることになるはずです。ちなみに、100dBの音量となると、電車が通る時の高架下や3m程度の距離で車のクラクションを鳴らされるレベルですので、美しい楽器の音色だとしても、十分に騒音に感じられてしまうことでしょう。

■環境騒音について
防音室に必要な性能を考える時には、自宅周辺に存在する環境騒音について考えておく必要があります。環境騒音については、余り聞き馴染みがない…という方が多いかもしれませんね。

環境騒音は、人が日常生活を営む上で、自然に耳に入ってくる雑音のことを指しています。例えば、家の前の道路を車が走る音やエアコンの室外機の音、人の話し声や風雨の音などを総称したものと考えていただければ間違いありません。

どのような場所でも、ある程度の環境騒音が必ずあります。皆さんの家の周りで、完全に無音になっているような場所など絶対にないでしょう。逆に考えると、防音室を作る時でも、防音室から漏れる音について完全に『0(無音)』にする必要などなく、周辺の環境騒音に混ざれば目立たなくなる程度であれば十分な性能と言えるのです。
なぜなら、ご近所の方は、環境騒音の中で生活をしているわけですので、あなたの家から漏れる音がその他の環境騒音に紛れるのであれば、特に気になるようなことはなく、苦情などは来ないはずです。

■防音室に必要な性能について
上記の『防音室内で発生する音量』と『環境騒音』から、自宅に設ける防音室に必要な防音性能を求めることが可能です。防音性能を求めるには、以下の式で計算すると良いでしょう。

計算式

防音室に必要な性能=防音室内で発生する音量 – 環境騒音の音量

例えば、自宅周辺の環境騒音が45dBの場所にて、ピアノを気兼ねなく演奏したいと考えた時には、以下のようになります。

計算式

95dB(防音室内で発生する音量) - 45dB(環境騒音) = 50dB(防音室に必要な性能)

上記のような計算となり、防音室に求められる防音性能は50dBとなるのです。専門業者に依頼して防音室を作る場合には、防音室の利用用途と自宅周辺の環境騒音の大きさから、必要な防音性能を導き出し、それに見合った工事にしてもらうことが何よりも重要と考えてください。予算が200万円だからと言って、「とりあえず200万円で実現できる防音工事にしよう」などと考えてしまうと、「-35dB」程度の防音室しかできないなんてことになる可能性があり、200万円をかける意味がなくなってしまいます。

防音室の利用時間を考慮することでコスト削減ができる

なお、環境騒音の大きさは、人間の活動量が関係してきますので、時間帯によって変化するというポイントはおさえておいた方が良いでしょう。皆さんも、昼間は気にならない隣家の音が夜間になると気になってしまう…という経験をしたことがあるのではないでしょうか?これは、昼間は人の活動量が多いことから環境騒音が大きくなり、多少の音であれば環境騒音にかき消されてしまうからです。夜間になると、環境騒音が小さくなるので、ちょっとした音でも目立ってしまい、気になるわけです。

環境騒音のこういった特徴をきちんとつかんでおけば、防音室を作る際のコスト削減に役立てることができます。上述しているように、防音室を作る目的は、音を完全に漏らさないようにするのではなく「ご近所さんから苦情が来ないようにする」ことですよね。そして、必要な防音性能は、自宅周辺の環境騒音と防音室内で生じる音量で導き出すのです。環境騒音のことを意識せずに防音室を設計してしまうと、以下のような事態を招いてしまう恐れがあります。

環境騒音を無視すると

  • 夜間に楽器の練習をするのに昼間の環境騒音に合わせた・・・防音性能が足りなくて苦情が来てしまう
  • 昼間に楽器の練習をするのに夜間の環境騒音に合わせた・・・オーバースペックな防音室が出来上がる(無駄なコストがかかる)

防音室を作る時には、どの時間帯に防音室を利用するのかも考慮して、どの時点での環境騒音を目安にするのかを決めると良いでしょう。また、コストを抑えて防音室を作りたいのであれば、昼間にしか防音室を利用しないなどの工夫をするのもオススメです。

目的が明確なら見積り比較で間違わない

ここまでの解説で分かるように、防音工事の施工を依頼する業者選びを行う時には、防音室を作る目的を明確にしておくことが非常に重要です。そうでなければ、実際に見積り比較をする際、間違った選択をしてしまう可能性があるからです。例えば、防音工事の見積りを3社の工事業者に依頼して、以下のような見積りが出てきた場合、皆さんはどうするでしょうか?

  • A社・・・見積り金額:400万円(高い)、推奨防音性能:65dB
  • B社・・・見積り金額:250万円(中間)、推奨防音性能:55dB
  • C社・・・見積り金額:180万円(安い)、推奨防音性能:45dB

相見積もりをとった結果、上記のような見積りが出てきた場合、多くの方は価格が最も安いC社を選択しようと考えるのではないでしょうか?しかし、価格の安さだけを見て、安易にC社を選択するのは非常に危険だと考えた方が良いです。

当たり前のことですが、見積り金額が安いのは安いなりの理由というものがあります。防音工事に関しては、工法や使用する材料のグレードなどを操作することで、工事にかかるコストを調整するのが一般的です。見積り金額が安いということは、他の会社よりもグレードの低い材料を使って防音室を作るわけですので、当然、防音室の性能は低くなってしまいます。つまり、防音工事の価格だけを見て業者を選んだ場合、防音性能が足りなくて「ご近所さんからの苦情を防ぐ」という目的を果たせなくなる可能性があるわけです。

数社から相見積もりをとる時には、「どこが一番安いのか?」という目線で見積り比較をするのではなく、まずは「目的を達成できるのか?」でピックアップし、その次に価格を見るようにしましょう。例えば、「A社の見積り:苦情の心配はない」「B社の見積り:苦情が来る可能性がある」「C社の見積り:確実に苦情が来る」というような内容であれば、見積り金額が高くてもA社以外の選択肢は間違った選択と言えるでしょう。

繰り返しになりますが、防音工事の業者選びを進める時には、まず最初に「防音室を作る目的を果たせる防音性能」を明確にし、それを実現できる提案になっているのかを確認するようにしましょう。

まとめ

今回は、自宅に防音室を作ろうと考えている方に向け、相見積もりをとった際の業者選びの注意点をご紹介してきました。防音工事などのリフォーム工事は、多額の費用がかかってしまいますので、「できるだけ安くしたい!」という考えで複数の業者に相見積もりを依頼する方が多いです。

ただ、防音工事は、一般のリフォーム工事とは異なり、防音工事を行う明確な目的があるということを忘れてはいけません。この記事内でご紹介しているように、防音工事は自分が生じさせる音によってご近所さんから苦情が来るのを防ぐこと、ご近所さんに音で迷惑を掛けないようにすることが最大の目的のはずです。それなのに、価格の安さに注目してしまうと、「性能足らずの防音室」が出来上がってしまい、かけたコストが無駄になってしまう可能性が残るわけです。
もちろん、お客様の心情を考えれば、「工事費をできるだけ安くしたい!」と考えるのも当然ですが、防音室を作る目的が果たせていないのであれば、工事を行う意味がなくなってしまうと考えた方が良いです。

スタッフ A

大阪で20年間にわたって防音工事に携わってきました。
防音工事に関しての事、音に関する豆知識などを配信しております。

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