集合住宅での騒音トラブルが増えているのに、防音性能を高くした分譲マンションが無いのはなぜ?

近年では、マンションなどの集合住宅で生活する方が増えており、各ご家庭の生活空間が非常に近い事や構造物でつながっていることなどが原因で、生活音による騒音トラブルが増加していると言われています。さらに、2020年以降は、新型コロナウイルス感染症が世界的なパンデミックを引き起こしたこともあり、人々の在宅時間がかなり長くなってしまい、騒音を原因とした近隣トラブルが急増していると言われているのです。

実際に、警視庁が公表した情報によると、日本国内で新型コロナウイルスが問題視され始めた2020年4月頃について、コロナ前の2019年と比較して騒音に関する通報の受理が約3割も増加したとしています。新型コロナウイルス問題は、これ以降さらなる拡大を見せ、緊急事態宣言や企業でのテレワークの導入が拡大していますし、騒音問題はこの時期以上に大きな問題になっていると予想できるでしょう。

このように、人々の生活空間が近くなってきた現在、誰もが日常生活を普通に進めているだけで生じさせてしまうような生活音が原因となる騒音トラブルが増加しているのです。しかし、分譲マンション業界を見渡してみると、これだけ騒音トラブルが多くなっていると言われている中でも、『防音性能の高さ』を売りにした物件などほとんど見かけることはないですよね。誰もが、自分の居住スペースは静かで快適な空間にしたいと考えるはずなのに、分譲マンション業界が物件の防音性能に着目しないのはなぜなのでしょうか?

ここでは、誰もが気になる素朴な疑問について解説していきたいと思います。

分譲マンションは『遮音』に着目している

まず皆さんに知っておいてほしいのは、分譲、賃貸に関わらず、マンションなどの集合住宅で騒音トラブルが発生することについて、「建築時に防音性能を無視しているわけではない!」と言う事実です。それどころか、近年新築される分譲マンションなどに関しては、中古マンションと比較すれば確実に静かな環境に近づいているはずです。

そもそも、分譲マンションなどが隣戸間の騒音を減らすために行っている対策は『遮音』性能に着目しているという特徴があります。このサイト内の別の記事でもご紹介していますが、防音は『遮音』と『吸音』を組み合わせてその能力を発揮させるものなのですが、分譲マンションでは、コンクリートの壁を分厚くしていくという方法で、遮音性を高めていっています。一昔前までのマンションでは、界壁の厚さが150mm程度が一般的だったと言われる中、現在では180mmや200mmを超えるような物件も登場しています。さらに、床のコンクリートに関しても同様で、現在は200mm程度のスラブ(コンクリートの床)が主流となっていると言われます。なお、床に関しては足音による騒音トラブルが増加していることから、二重床の足元にゴムを設置して制振対策まで施されている物件まで登場しています。

このように、「騒音トラブルが増えている!」と言われるマンションですが、ここ40年程度を考えてみると、物件そのものの防音性能は飛躍的に高くなってきており、実際に室内で聞こえる隣家や上下階からの生活音などはかなり小さくなっています。しかし、マンションを取り巻く環境では、相変わらず騒音に関する問題が発生しており、警察に騒音に関する通報が入るケースも珍しくないと言われています。

それでは、壁や床などが厚くなり、遮音性能が向上している分譲マンションなのに、騒音トラブルがいまだに多いのはなぜなのでしょうか?その理由は、「分譲マンションの防音は遮音対策に頼っているから」と言うのが大きな要因だと考えられます。前述したように、防音性能は、遮音と吸音を組み合わせることで高い効果が得られるものです。しかし、分譲マンションなどでは、遮音と吸音両方の対策が行われるのは、ポンプ室など、機械による騒音が激しいと考えられるような場所のみだとされています。実際に、「オシャレな空間」を演出するため、コンクリートの壁が剥き出しになっているようなマンションを見かけるようなこともあるなど、吸音対策が施されているマンションの居室はほとんど見かけるようなことがありません。
それでは、分譲マンション業界でこのような状態になっているのはなぜなのでしょうか?

防音分譲マンションが少ない理由とは?

それでは、分譲マンション業界で『防音』を重視した物件が少ない理由について考えていきましょう。コロナ禍の現在、集合住宅、戸建てに関わらず、近隣住人が生じさせる生活音などを原因とした騒音トラブルが急増していると言われています。実際に、国土交通省が定期的に行っているマンション総合調査によると、マンション内で生じているトラブルについて、『生活音』を原因とするトラブルが2018以降は第一位になっています。

このように、集合住宅で『音』が原因となるトラブルが増加している中、なぜ分譲マンションが防音性能に特化した物件を作らないのでしょうか?普通に考えれば、他の物件と差別化を図る事ができますし、徹底した防音を施したマンションを作れば売れるのではないかと考えそうなものですよね。
しかし、防音は、目に見えない音への対策だという点から、以下のような懸念が生じてしまい、防音マンションが作られないのだそうです。

①騒音は個人によって感じ方がかなり異なる

建物の防音に関しては、どれだけ強固な防音対策を行ったとしても、完全に無音にするようなことはできません。当然、想定以上の音を出してしまうような行為をすれば、近隣に音が伝わってしまいます。また、耳の良さについては個人差が大きいですし、音の感じ方についても人それぞれですので、ある音を不快に感じるか気にならないかは、建物の性能でどうこうすることができない部分でもあるのです。例えば、日本の夏の風物詩である風鈴などについても、その音を「涼を感じる心地よい音だな」と思う方もいれば、「騒音を出しやがって!」と不快に感じてしまう方、両方います。

こういったことから、マンション自体に徹底した防音対策を行ったとしても、そこに住む人の騒音に対する感性が全く異なることから、「騒音トラブルの可能性をゼロにできない!」と言うのが防音マンションができない大きな理由の一つになります。

②『防音』を謳うことでクレームを誘発する

①の原因に関係していますが、分譲マンションを建築する際、どれだけ徹底的に防音対策を施したとしても、完全に無音な環境を作ることはできません。さらに、高層マンションの上の階になれば、自動車の音など周辺の騒音がなくなって静かな環境になってしまう分、逆に隣家の物音が気になってしまうことすらあるのです。
分譲マンションになると、多額のお金をかけて購入するわけですので、「防音マンションだから騒音に悩まされることはない!」と思って購入した人が、期待が大きかった分、些細な音まで気になってしまうようになる可能性があるのです。そして「防音物件だから高いお金を出したのに!詐欺ではないか!」と言ったクレームにつながる可能性が生じてしまいます。

こういった理由から、マンションデベロッパーなどは、「防音物件」を謳えば売りやすくなると理解していても、売却後のトラブルが予想できますので、防音分譲マンションを作らないのだと思います。

③とにかく高い

3つ目の理由は、徹底した防音対策を行うために、建築コストがかなり高くなってしまうことから、同じような間取り広さの物件と比較すると販売価格が跳ね上がってしまうという問題があるからです。
たとえば、戸建て住宅にピアノなどの楽器用防音室を設けようと思えば、壁や床、天井を2重にするといった防音リフォーム工事が行われます。つまり、部屋の中にもう一つ部屋を作るといったイメージになると考えてください。もちろん、分譲マンションの防音は、楽器の大きな音までを防ぐ必要はないので、ここまでの工事はしなくても構わないでしょう。ただ、それでも壁の中に十分な吸音材を充填したり、足音対策のために2重床を導入したり、窓を防音仕様にしたりと、他の分譲マンションとは比較にならないほどコストがかかってしまうのです。
ちなみに、防音対策に関しては、基本的に目に見えない部分に施す対策になりますので、目に見える部分の建材について、グレードを落とすことで、類似物件と同じような価格帯の防音物件を作ることも可能だと思います。しかし、こういった対策をとった場合、「防音対策は目に見えない」と言うことから、類似物件と比較すると、安っぽく見えて買い手がつかない…なんてことになるのです。

要は、防音物件は、見た目もこだわると販売価格が高くなりすぎて売れにくい…、条件が似た物件の価格帯に合わせると、見た目が安っぽくなり売れない…などとなり、販売戦略に苦戦してしまう可能性が高いのでどこも作らないのだと思います。

④住人が後から手を加えると意味がない

防音対策は、かなり細かな計算のもと設定が行われます。音は、小さな隙間からでも振動が伝わり、騒音と感じられてしまいますので、住人の目に触れないような壁の中まで丁寧な施工が行われているのです。

しかし、住人さんがマンションを購入し、実際に住み始めてみると、ちょっと不便に感じるような部分が生じてしまい、リフォームするなんてことは普通にありますよね。例えば、家具と壁紙の色が合わないと感じたので、壁紙を変えるなんてケースです。このような場合、壁表面に吸音材が設置されていたのにそれを無視してしまうと、本来得られていたはずの防音性が簡単になくなってしまう訳です。もちろん、これは極端な例ですが、家は意外とすぐに劣化が進むものですので、楽器用の防音室のように、そこまで利用頻度が高くない場合以外は、想像以上に性能劣化が早く進むと考えてください。

こういったことから、高いお金を出してマンションを購入した人がいても、入居後数年で、騒音に悩まされてしまう可能性があることから、トラブルが予想できるのでわざわざ防音マンションを作らないのだと思います。

まとめ

今回は、マンション暮らしの方が増加する中、年々騒音トラブルが増加していると言われる集合住宅について、騒音の問題が増えている中で、なぜ防音に特化した分譲マンションが無視されているのかをご紹介してきました。

この記事でご紹介したように、分譲マンションは「騒音トラブルの可能性が高い」とデベロッパー側も理解していますので、壁や床などのコンクリートを分厚くして、遮音性はかなり高くなっていると言われています。実際に、鉄筋コンクリート造のマンションに住んでみると、上の階に相当騒がしい一家が住んでいる…といった特殊なケース以外で、生活に困るほどの騒音を感じることなどないのではと思えるほど、高い遮音性を持っています。

しかし、音の問題は、人によって感じ方が全く異なることから、『防音性能』の高さを売りにしてしまうと、購入者とトラブルになってしまう可能性があるのです。マンションの購入時には数千万円のお金を支払う訳ですし、その多額のコストで『防音』マンションを購入したとなれば、「音の問題は一切気にしなくて良い」と考えてしまう方が多いわけです。しかし、どれだけ徹底的に防音対策を行ても、完全に無音の環境を作ることなどできませんし、期待が大きかっただけ音が伝わると「騙された…」という印象になってしまうものなのです。こういった理由から、分譲マンションが建設時に防音対策を施すケースは少ないので、住んでみて音の問題を感じた場合、それぞれのご家庭が適切な防音対策を施す必要があると考えてください。

スタッフ A

大阪で20年間にわたって防音工事に携わってきました。
防音工事に関しての事、音に関する豆知識などを配信しております。

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